今年の4月初めの頃だった。
派遣先の仕事が休みの日で、午前中から家でコタツに入ってゴロゴロしていたら電話が鳴った。
どうせ、何かのセールス電話かなんかだろう、面倒だなと思いながら受話器を取った。
すると案の定「○○さんのお宅ですか?」と聞いてくる。
私が不愛想に「そうですが、何か?」と答えると・・・
「実は私、警視庁捜査第2課の石田という者です。
今、渋谷の管内でオレオレ詐欺の集団が捕まったんですが、その中にお宅○○さん名義の郵貯銀行の通帳が一冊見つかりました。最近何か変わった事は起きませんでしたか?」と聞く。
別段、変わったこともなかったので「何もありませんが・・・」と答えた。
すると、やけにしつっこく住所を尋ねてくる。
何度も聞いて確認を取ろうとする。
こちらがイライラしてきて「そうです。今、言った住所に間違いありませんが・・・」不愛想に答えると、
「今、被害に遭われた方を1軒ずつ尋ねて、確認を取っているのですが、ご都合の良い時間はありませんか?できればお宅に伺って、この通帳を見てもらいたいのですが・・・」と聞いて来る。
「何時でも構いませんよ。今日は暇だから・・・」と答えた。
「分かりました。では4時から5時ぐらいの間はどうでしょうか?」
「大丈夫ですよ。ところで被害はどれぐらい出ているんですか?」と聞いた。
「今のところ被害額は大したことありません。被害者は7~8人で2,000~3,000万円位といったところです。大体のところですが・・」と答えた。
丁度、私は午前中に自分の郵貯銀行の通帳がどこにあるのか、分からず探していた。
正直言って一瞬、頭が混乱した。
タイミングが良すぎる。
ここで、相手の電話番号を聞き返さなかったのが失敗だった。
相手は畳みかける様に「それではこれから、10分以内に日本銀行の防犯対策課○○係の○○という者から電話が行きます。そうしたら、話をよく聞いて行動をしてください。」ときた。
「あー、そうですか。じゃお待ちしていましょう」と言って電話を切った。
どうにもこうにも胡散臭い。
すぐ妻の勤務先に電話をして通帳のある場所を聞いた。
妻も「それは怪しい。そんな電話がかかってくるはずがない。通帳はちゃんと家に置いてある。無くなる訳がない」と言う。
私は「やはりそう思うか?これはオレオレ詐欺だな!」と言うと、間違いなくそうだろうと答えた。
妻の言う場所を探すとちゃんと通帳はあった。
妻に確認の電話をして暫くすると電話が鳴った。
出ると、さっき「石田」と名乗った男の言う様に「日本銀行防犯対策課○○係の○○です。警視庁の石田さんから電話があったと思いますが○○さんですか?」と聞いて来る。
「そうです。○○ですよ。」と答えると、妙にオドオドした声で色々聞いて来る。
しかし、聞き取れない。
歳の頃なら65~66ぐらいといったところか・・・
段々、こっちがイライラしてきて、「あー、ちょっと聞き取れないので、もっと大きな声で喋れませんか?」と怒鳴る様に言うと少しだけ声が大きくなった。
しかし、やはり聞き取れない。
何を喋っているのか、さっぱり分からない。
聞き取った事も今ではもう忘れてしまった。
思い出せない。
それぐらい印象が薄い。
今から思えばまだ「オレオレ詐欺」見習い中だったんだな。
「あんたの言ってる事が本当か、どうか分からない。こちらから電話を掛けなおしてやるから電話番号を言え!」と怒鳴った。
すると、「警視庁の方から電話番号は教えないようにと言われていますので・・・むにゃむにゃ・・・」
「馬鹿野郎!そんないい加減な話に乗ってる暇はねえよ。ふざけるな!この野郎!」と怒鳴って、電話を叩切ってしまった。
暫くして、「しまった」と思った。
騙された振りをするんだった。
騙された振りして自宅に呼び寄せるべきだった。
そうすれば捕まえられたかもしれない。
後悔の念がよぎる。
それにしても悔しい。
一瞬でも「石田」と名乗る男を信用しそうになった自分に腹が立つ。
腹の虫がおさまらないので渋谷警察署に電話をした。
どうも「オレオレ詐欺」らしい電話があったと言うと、ものの10分としない内に本当の捜査係の担当者2名が我家にやって来た。
1人はやや年配の50過ぎぐらいだろうか?
もう一人はまだ若い、30半ばぐらいか。
事情を話すとこの後は慎重に行動してほしい。
電話が鳴っても出ないで欲しいと言う。
「いや~、腹立ちまぎれに電話を叩きってしまったのを後悔しているんですよ。騙された振りして家におびき寄せるべきでした。そうしたら、捜査にも協力できたものを・・・」と言うと、
若い方の捜査官が意外な事を言った。
「いや、我々もよほど確証がない限り、今民間の方に積極的に協力を仰いではいないんです。」
ちょっと拍子抜けがしたので「なぜ?」と聞くと、これまた意外な返事が返ってきた。
要は「オレオレ詐欺」集団を一網打尽に捕まえる事は至難の業らしい。
捕まるのはホンの下っ端の金を受け取りにくるアルバイトの様なアンちゃんばかりで、その上にいる指揮している本当の悪玉がなかなか捕まえられない。
逃げ延びた連中が捜査に協力した家にとんでもない悪さをしていくらしい。
例えば、ピザの配達を10万円ぐらい注文したりして困らせるらしい。
「ふーん、そうですか・・・それは困ったイタズラですね。」と言うと、
「そうなんです。ピザを配達した店が警察に何とかして下さいと泣きついて来たりするので我々も困っているんですよ。」と答えた。
その後、又電話があったらすぐ警察に通報してください。
とにかく今日はもう電話に出ない様にして下さいと言って引き揚げて行った。
警察官が帰った後、拍子抜けしてしまった。
その後、再び電話が鳴ることもなかった。
「オレオレ詐欺」の連中とは相まみえることはなかった。
しかし、分からないのはピザ店の対応だ!
10万円のピザの配達を相手先の電話番号も聞かずに受けるのか?
普通は受けないだろう!
折り返しの電話で本当に間違いないか、確認するだろうに・・・
会社のパーティーでもない限り、個人宅で10万円のピザの注文はしないぞ!
そんな嘘も見抜けない程、ピザ店はおかしな奴ばかり働いているのか?
大量注文する相手先を再確認するだろうが・・・!!
初歩的な確認もしないで嘘の注文を真に受けて配達するのか?
そして警察に泣きつく。
どこかおかしくないか?
そのために警察の捜査が委縮するなら本末転倒だ!
割り切れない思いのまま一日が過ぎて行った。
後味の悪さだけが残った。
やはり腹が立つ。
どこにももっていきようがない。
ますます腹立たしい。
それにしても俺の所には良くおかしな事がおきるなぁ。
携帯電話にしても時々訳の分からない架空の請求が来る。
この間もメールが入っていた。
「有料サイト登録履歴があり未納料金が発生しています。本日連絡なき場合法的手続きに移行します。
日本配信協会03-6384-7022」
無論、心当たりなどない。
放置したまま半年が過ぎた。
それにしても、あの連中どこで我家の電話番号と住所を割り出したのだろう?
NTTの電話番号簿からか? もう登録を抹消しておくか!
我家まで来て、この俺が通帳を渡したり暗証番号でも教えると本気で思っていたのかな?
警視庁捜査第課!日本銀行防犯対策課○○係!
こんな胡散臭いなりすまし電話を誰が本気で信用すると思っているのか?
いるのかな? いるから本気でこんな電話をして来るのだろうな。