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伊藤忠のデサントへのTOB成立・狙いは何か?分かりやすく解説

2019/06/21
 
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日本国内では極めて異例だ。大手通しのTOBは初めてではないが、2~3例あるだけだ。
伊藤忠商事は15日、スポーツ用品大手のデサントに対する株式の公開買い付け(TOB)が成立したと発表した。これで、伊藤忠の持ち株比率は約30%から40%に上昇する。株主総会で重要事項の拒否権を行使できる「3分の1超」の株式を確保することで伊藤忠の影響力は一段と増すことになる。

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Contents

伊藤忠のデサントへのTOB成立

なぜ、両社の関係はここまで悪化し、こんな事態にまで発展してしまったのであろうか?

 

伊藤忠TOBの直接の引き金となったのは、デサント経営陣が投資ファンドと組んで検討していた経営陣による自社株買い(MBO)が問題の発端だというが・・・そんな綺麗ごとではなく、もっとドロドロとした生臭いものらしい。

 

昨年11月に、デサントから自社株買い(MBO)の打診を受けたが、「巨額の借り入れをしてまでやる利点がない」(伊藤忠の小関秀一専務執行役員)として反対し、TOBへと判断が傾いたという。これは表向きの話…実際はTOB強行の発端は別の所にある。

 

伊藤忠の小関秀一専務執行役員は1月31日午後、大阪市内で報道陣の取材に応じ、創業家出身の石本雅敏社長が主導するデサント経営陣への不信感をあらわにしていた。

 

伊藤忠は、TOB完了後、デサントの取締役を10人から6人程度に減らし、社外取締役の2人を除いて伊藤忠とデサント側で2人ずつを要求する方針だという。

大阪:デサント本社

 

伊藤忠の狙いは何か?

狙いは、はっきりしている。伊藤忠に叛旗を翻した「番頭4人組」の追放だ。デサントの10人の取締役は以下の様になっている。

【デサントの取締役】
会長    中村一郎(63)            前伊藤忠商事専務執行役員
社長    石本雅敏(56)            創業家3代目
専務執行役員(最高製品責任者)   田中嘉一(61)
常務執行役員  三井久(64)         デサントジャパン社長
常務執行役員(最高戦略責任者)   羽田仁(63)
常務執行役員(最高財務責任者)   辻本謙一(63)
常務執行役員 金勲道(50)            韓国デサント社長
取締役    清水源也(57)          伊藤忠商事執行役員
社外取締役  井伊雅子(56)一橋大学国際・公共政策大学院教授
社外取締役  朱 殷卿(56)コアバリューマネジメント社長

 

伊藤忠の人事構想は、「田中専務、三井常務、羽田常務、辻本常務」の4人を更迭し、デサント側は石本社長と金常務の2人、伊藤忠側は中村会長と清水取締役の2人にするというもの。

 

最大の狙いが、デサントの御曹司を担ぐ「番頭4人組」の追放にあることが、はっきりとわかる。

東京: 伊藤忠本社

 

デサントが伊藤忠・岡藤会長の恫喝テープの存在をマスコミに暴露

『週刊文春』(2018年11月1日号)が、『伊藤忠のドン岡藤会長の“恫喝テープ” デサント社長に「商売なくなるで」』という暴露記事を掲載した。これがTOB強行の真の発端となる。

 

両社のトップ会談は2018年6月25日、東京・青山の伊藤忠東京本社で行われた。デサント側が株主総会後の恒例の決算報告に訪れた。伊藤忠からは岡藤正広会長兼CEOと小関秀一専務執行役員・繊維カンパニープレジデント、デサントからは石本雅敏社長と三井久常務執行役員が出席した。

 

デサントは連結売上高で約5割、営業利益で大半を韓国事業が占める。伊藤忠は市場規模の小さい韓国に依存するのは危険と判断し、経済成長が著しい中国市場を開拓するよう求めてきた。

 

しかし、デサントは忠告を無視。韓国頼みの経営は相変わらずで、中国事業の取り組みは遅れている。それが伊藤忠のドン、岡藤会長を苛立たせていた。石本社長の顔を見るや、岡藤会長の怒りが炸裂した。

 

「文春」によると、こんなやりとりだったという。

 

岡藤「伊藤忠の信用だけで借りてな、『独立独歩でやります』と。ここまでナメられたら、やってられへん。俺のことを馬鹿にしているのかというとるがな」「(株を)売るとしたらライバル会社か中国かファンドやわな。それしかないわな。そうやろ?」

 

石本「この1年の間に、(株を)増やすか減らすかを必ず決めるということですか?このまま一緒に何かをやっていくことを考えるのではなく、増やすか減らすのかどちらかということですか?」

 

サントは伊藤忠の信用をバックに商売ができているのに、持ち株が25%という中途半端な状態で、経営にグリップが利かない。なのに何かあったら伊藤忠が責任をかぶるのはおかしい。これが岡藤会長の主張だ。

現状維持を主張する石本社長に、岡藤会長は経営体制についても言及した。

 

岡藤「今の経営体制っていうのは、それはもう、会社の社長としたら我々は認められないわ、な?」

石本「なぜ私がこのまま経営者でやっていくのが認められないのですか?」

2人の主張は平行線をたどり、ケンカ別れで終わったという。

 

ケンカ別れ直後に株買い占め開始

この直後から、伊藤忠はデサント株の買い増しを始めた。伊藤忠は18年3月期末時点で、デサントの発行済みの25.0%を保有する筆頭株主だった。持ち株比率は7月6日に26.0%、8月27日に27.7%、10月29日に29.8%に高めた。

 

企業がほかの企業の株を買い増す場合、関係悪化を招かないように、事前に知らせることが普通。この買い増しについて、伊藤忠はデサントに事前に連絡しなかった。

 

対抗して、デサントはワコールホールディング(HD)と8月30日、業務提携した。ワコールHDを、伊藤忠の防波堤にする「ホワイトナイト」(白馬の騎士)とメディアは報じた。

 

そして、デサント側が仕掛けたのが、岡藤会長と石本社長の会談の一部始終を隠し取りした録音テープを「週刊文春」に流すことだった。

 

関係者によると、石本社長が、伊藤忠に対抗するため、指南役に招いたジャーナリスト出身の危機管理コンサルタントが仕掛けとされる。このコンサルタントはマスコミを利用した情報操作に長けているそうだ。

 

隠し取りした録音テープには、岡藤会長の「恫喝」ぶりを生々しく伝えている。仕掛けた側は、デサントをいじめる大企業・伊藤忠の横暴を世に知らしめる狙いがあったようだが、結果は逆効果に終わった。

 

トップ同士の会談を秘密裏に録音し、週刊誌に流す非常識に、それまでデサントに同情的だった企業が距離を置いた。ホワイトナイトを期待したワコールHDは、「資本関係を結ぶことはない」と否定する談話を出した。

 

デサントは同業他社のアシックスや国内の投資ファンドに株を持ってもらうよう働きかけていたが、いずれも「君子危うきに近寄らず」とそっぽを向いた。

 

デサントは、隠し取りテープを流したことで、一気に信用を失った。あまりにも軽率な行為だった。「恫喝テープ」を流された岡藤会長は怒り心頭だ。伊藤忠がTOBに踏み切る引き金になったのは、この恫喝テープ事件だった。

 

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伊藤忠に救済されたデサントの過去

デサントは1935年、石本雅敏社長の祖父、石本他家男(たけお)氏がグローブなど野球関連商品を製造、販売したのが始まり。その後、野球用のニットのユニフォームを開発し、1968年に中日ドラゴンズが採用したのを皮切りに、多くのチームに供給した。

 

デサントと伊藤忠の関係は古い。1964年にデサントは伊藤忠とともにゴルフウェアの米マンシングウェアと提携。ワンポイントのロゴを入れたゴルフウェアのマンシングウェアの発売で、ワンポイントブームの火付け役になった。

 

デサントは、伊藤忠に2回救済された。1984年、デサントはマンシングウェアの過剰在庫を抱えて経営難に。創業家の2代目の石本恵一(よしかず)社長が伊藤忠に支援を要請。伊藤忠は繊維部門の飯田洋三氏を役員に派遣。飯田氏は1994年、デサントの社長に就任した。

 

1998年、創業以来最大の危機がデサントを襲った。ドイツのスポーツ用品メーカー、アディダスが1998年に日本法人を設立するのにともない、デサントはライセンス契約の打ち切りを通告されたのだ。

 

デサントはアディダスの国内での企画、販売を一手に引き受けていた。当時、1,000億円あった売上のうちアディダス製品の売上高はおよそ400億円。それをごっそり失う。

 

未曾有の危機に、伊藤忠はデサントの再建に乗り出す。2000年、伊藤忠はデサント株の11.4%を取得。2002年に副社長・田尻邦夫氏をデサントの社長に送り込んだ。田尻氏は改革を断行。

 

2007年、伊藤忠の常務執行役員・中西悦朗氏がデサントの社長に就いた。
2008年には、伊藤忠はデサント株の19.4%を取得し、持ち分法適用会社に組み入れ関係を強化。伊藤忠は2010年、デサント株を買い増し、発行済み株式の25.0%を保有する。

 

分かりやすく解説:終わりに

すべての事の発端は、デサントが過去に2度も経営危機を救済してくれた伊藤忠への恩を忘れ、創業者子孫の御曹司を担ぎ上げ、自社経営を確保しようとした事にある。

 

そして、トップ同士の会談を秘密裏に録音し、週刊誌に流すという非常識極まる行為に救済を期待した企業がそっぽを向いた。経営陣としてはあまりに軽率・・・呆れて言葉がない。

 

両社は、TOB期間中も水面下で協議した。しかし、取締役の構成を巡り最終的に合意できなかったという。

 

デサント社内では伊藤忠への反発が根強く、双方が株主の賛同を得るため、株主総会に向けて委任状を奪い合う争奪戦に発展する可能性もある。

 

これに対し、伊藤忠はデサント株の約7%を保有する2位株主の中国のスポーツメーカー「ANTA(アンタ)」から支持を取り付けているもよう。

 

株主総会でもデサント側の劣勢は否めない。すべては身から出た錆だ。同情論は少ない。そして、ここまで強硬にTOBが進んだ背景は、両社の経営陣どうしのドロドロとした人間関係・・・極めて生臭い人間関係の言い争いがきっかけである。

 

そんなに難しい理論的な問題ではない。すべては人間がやっているる事だ。デサントの経営陣が刷新されなければ事が収まることはない。修正はもう不可能だろう。極めて生臭い人間通しの対立劇だ。

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