2年ぶり、全米オープンで逆転優勝した大阪なおみ選手。決勝戦での見事な逆転劇は素晴らしいの一言に尽きます。1セットを落としてから逆転で全米オープンに優勝した選手は実に26年ぶりと言う快挙で…2年間の低迷期を経て、彼女は大きく成長したなと感じました。また大阪選手の時代が再来したようですね。グランドスラム3連覇の覇者はひょっとして、四大会を制覇するのでは…?今回の勢いを見ていると、間違いなくレジェンドになる予感が…。世界を魅了した彼女の2つの戦いにスポットを当ててみました。
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大坂は前哨戦のウエスタン&サザンオープンの最中、SNSに「私のプレーを見てもらうより、もっと注目すべき重要なことがある」と投稿、黒人男性が警察官に射殺された事件に抗議するため、準決勝を棄権する意思を示しました。
投稿は英語、日本語が併記されていましたが、人種差別問題への関心が低い日本に向けての問題提起であった様な気がしています。知らないことは事態を肯定しているのと同じ、と日本の人々に鋭く迫ったメッセージだったのでは?アスリートで、ここまで自己主張できる選手を私は他に知りません。
シャイで控えめな大阪選手がここまで大胆な行動を取ったのが意外であると共に、彼女の意を汲み取った全米女子テニス協会がすべての試合を1日延期したのも素晴らしい。日本で起こりうる動きではありませんね。
後日、棄権したはずの準決勝に再び臨み、勝利した大阪選手の態度は実に立派でした。残念ながら、太ももの負傷で決勝戦は辞退しましたが、今回の全米オープン優勝の様子を見ていると、また大阪なおみの時代が来たなと確信しました。
彼女はプレーしながら、人種差別問題を世に訴えかけていく。そして、勝つことで自分の意志を貫くプレースタイルに多くの人が賛同したのでは?全米オープンは、それを体現する場となったのですから、なおさら感動的で、印象的でした。
一人一人の黒人の犠牲者たちの名前を良く知らない自分を恥じています。知ろうと思ったのも、大阪選手に啓発されたからでした。
「7枚のマスクでは、多くの犠牲者の名前をつづるのに足りないのを残念に思う。決勝に行って、全てのマスクを見せたい」…1回戦の勝利インタビューで語っていた大阪選手。
言葉通りに決勝まで進み、7枚全てのマスクを披露しました。決勝戦を含めると全7試合で!
誰にでも出来ることではありませんね。大阪選手だから成しえた快挙です。ビッグタイトル戦では、自分のことだけに集中するのも大変なのに、敢えて社会に向けてメッセージを発信するという困難な挑戦を同時に自分に課した原動力は何なのか。
黙って見ていられなかったという信念からでしょうが…。また、自身もアメリカでの生活の中で、人種差別を受けたのではないか。そうでも思わないと、ここまで真剣になれる姿勢が理解しがたい。
それでも、抗議の姿勢を見せることでスポンサーが下りたり、選手生命を剥奪される危険性だってあるのに…ほんとに勇気ある行為だったと思います。
決勝戦後のインタビューで「黒いマスクをすることで何を伝えたかったのか」と問われると、「あなたに何を感じ取ってもらえたか。それが大切です」と、この切り返しのセンスは見事でしたね。頭の良さと感受性の鋭さに驚かされました。彼女、独自の持ち味です。
全米オープンの前哨戦となるウエスタン&サザンオープンでの抗議声明から、大坂選手はテニスコートの内外で最も注目される選手に…。日本人で、これだけ発信力のある選手は皆無ですね。際立ちます。
全米では毎試合、異なる人名が記されたマスクを着けて入場し、「決勝に進んで全部見てもらいたい」と話し、「コート外での様々なことは、この大会で結果を残すための大きなモチベーションになっています」と話した大坂。このように言い切れる選手を他には知らない。
ウィム・フィセッテコーチも「間違いなく彼女の助けになっているし、大きなエネルギーを与えています。彼女は常にモチベーションを持っていますが、このことはさらなるモチベーションになっていると思います」と同意見。
2年前、全米で優勝した時は強さばかりが目立っていたが、今回の大阪は明らかに違っていた。精神的にも、フィジカル的にも大きく成長していた。しかも、欧米の選手の様に強烈なメッセージを放つのではなく、自分が黒いマスクを付けることで、「人々が語り合うきっかけを作りたかった」…というこの控えめな姿勢が物凄くいい。
彼女の謙虚さが人々の心を惹きつけるのだと思う。前回の全米優勝インタビューでもセリーナに「相手にしてくれてありがとう」と謙虚な言葉を伝えている。アメリカ人にも、この奥ゆかしさが伝わったのでは…?
この謙虚さが失われていない態度に、とりわけ彼女らしさを感じるのですが、私だけではないような気がしています。
しなやかで柔軟な発想と彼女の控えめな態度が今、大きな存在感を放っている。政治的な発言を嫌うスポンサーやアンチ大阪ファンに批判や反論の余地を与えない見事さ。コロナで自粛を強いられている間に、間違いなく彼女は進化したらしい。
大坂選手が発信することを我々はきちんと受け止めるべきだと思う。さまざまな受け取り方があっていいと思うし、いろいろな意見があっていいと思うが…。まず、謙虚さが欲しい。批判するだけの傲慢さであってほしくない。許されることではないし、間違いなく差別に繋がる。
優勝した事で「Black Lives Matter」が国内の地上波テレビでも広く取り上げられ、対岸の火事のように見ていた人にも問題が認知された意義は大きい。世界中の人たちが、これを話題にしているし、大坂選手がコートの外で手にした、もう一つの勝利であると確信しています。
こういう抗議の仕方もあるのだ、という態度を示しただけでも尊いと思う。彼女自身もアメリカで暮らすうちに、様々な人種差別を受けたことがあったのだろうと推測される。また声を上げないのは差別の事実を肯定し、放置することに繋がるのだと思う。
あらゆる人があらゆる分野で、人種差別撤廃を話し合うきっかけが生まれれば、それが一番良いことなのだ。知ることから始まる偏見が確実に存在しているのだから…。
元世界ランキング1位、ビクトリア・アザレンカ(ベラルーシ)との決勝、大坂選手の出足は明らかに鈍かった。黒マスクや抗議のすべてがプレッシャーになっていたのでは?硬さは間違いなくあった。勇気を持って発信した事が彼女を縛り付けていたのは明らかだった。
大坂が振り返って言っている。 「とても緊張して、足が動きませんでした。第2セットも先にサービスゲームを落としてしまいましたが、できるだけポジティブにいよう、6-1,6-0で負けないように、とだけ思っていました」と…。
そして、ここから大坂は巻き返す。全米の女子シングルス決勝で第1セットを落とした選手の逆転勝ちは、1994年にアランチャ・サンチェス ビカリオ(スペイン)がシュテフィ・グラフを破った試合以降、一度もなかったという快挙を成し遂げる。
この強さはメンタルとフィジカルの両方から…鍛えなおしたことにある。
大舞台で、先行を許した選手が反発力を発揮するのがいかに困難かを物語るデータを覆したのも大きい。 優勝を決めた大坂選手は、一瞬、目頭を押さえる仕草を見せたが、陣営の歓喜が視野に入るとたちまち笑みに変わった。
泣かなかったのが、女々しい日本人らしくなくて、返って良かったと思う。
コートに仰向けになって空を見る場面がまた印象的だったし、SNSには「これほどタフなアスリートがいるだろうか」と称える声があった。この見方に100%同意する声も…。
表彰式では、準優勝のアザレンカが「これから何度も決勝で対戦できるといいですね」と話したのを受けて、「私はプレーしたくないです。実際、タフな試合で、全然楽しくなかったので」と返した。
優等生の定型に収まることを嫌う、このセンスもまた、彼女らしさである。まったく同感する。
2週間後の全豪オープンに出場するのか、興味は尽きない。左足太腿のケガが言えていないと聞くが、無責任な一ファンとしては勝手に期待をしてしまう。やはり、彼女にはテニスコートが一番似合うと思うから…。
又勝ち続けることで発信され、新たに生まれるメッセージが確実に存在しているのだから…。
ファンは彼女に期待し続けますが、これからも彼女と共に考え続けると思います。